「お母さんの入れ歯が壊れちゃって…」
「歯医者さんに行ったけど、できるまで2ヶ月かかるって言われた」
「その間、ごはん、どうしたらいいんでしょう?」
そんなご相談、私は現場で本当によく受けます。
私は 言語聴覚士(ST)として9年間 急性期病院で嚥下(飲み込み)リハビリに携わり、現在はリハビリ特化型デイサービスで勤務中。2児の母でもあります。
このページでは、 入れ歯ができるまでの期間の目安 と、 その間の食事の工夫 を、ST視点でやさしくお伝えします。
※本ページは一般的な情報提供を目的とした内容です。個別の症状や治療方針については、必ずかかりつけ歯科医にご相談ください。
結論|修理なら1〜2週間、作り直しなら1〜2ヶ月
先に結論からお伝えしますね。
入れ歯ができるまでの期間は、ざっくり次の通りです。
- 修理(一部の割れ・バネの破損):おおむね 1〜2週間
- 作り直し(全体を新しく作る):おおむね 1〜2ヶ月

「え、そんなにかかるの?」と驚かれる方が多いです。
でも、入れ歯は 一人ひとりの口の形に合わせて作るオーダーメイド 。型取り・調整を丁寧に進める分、どうしても時間がかかるんです。
その期間中、食事をどう工夫するかで 嚥下機能・体重・気持ちの落ち込み が全然違ってきます。ここからじっくり見ていきますね。
入れ歯ができるまでの標準工程(5ステップ)
歯科医院で入れ歯を作る時、ざっくり次の5ステップを踏みます。

① 診察・型取り(1回目)
まずは口の中をチェックし、 歯の状態・残っている歯の本数・歯ぐきの形 を確認します。その上で型取りを行います。
💡 型取りって何?:お口に専用の材料を入れて固め、歯ぐきや残っている歯の形を立体的に写し取ること。入れ歯の土台になる大事な工程。
② 噛み合わせの記録(2回目)
上下のあごの位置関係を記録します。これがズレると、 噛みにくい・はずれやすい入れ歯 になってしまうので、慎重に行います。
③ 試適(してき/仮合わせ)(3回目)
ロウや樹脂で作った仮の入れ歯を、 実際にお口の中に入れて確認 します。
- 噛み合わせはどうか
- 見た目(前歯の長さ・並び)はどうか
- 違和感はないか
ここで気になる点があれば、 作り直しではなく微調整で済む ことが多いです。
④ 完成・装着(4回目)
調整した内容をもとに、本物の入れ歯を作って装着します。「今日からこれで食べていいですよ」となる日ですね。
⑤ 調整通院(5〜数回)
新しい入れ歯は、必ずどこかに違和感が出ます。
- 当たって痛い場所がある
- 食事中にはずれる
- 発音しにくい
こうした不具合を、 数回の通院で削ったり足したり して整えていきます。
💡 ポイント:「完成=ゴール」ではなく、「装着してからの調整こそ大事」と覚えておくと安心です。
部分床義歯と全部床義歯で工程はどう違う?
入れ歯には大きく分けて2種類あります。
- 部分床義歯(ぶぶんしょうぎし):残っている歯にバネをかけて使うタイプ
- 全部床義歯(ぜんぶしょうぎし):すべての歯を失った方が使うタイプ(総入れ歯)
工程は基本同じですが、 作るのにかかる期間は少し違います 。
- 部分床義歯:型取り〜完成まで 約1〜1.5ヶ月
- 全部床義歯:型取り〜完成まで 約1.5〜2ヶ月
総入れ歯のほうが、 噛み合わせや吸着の調整に手間がかかる ため、少し長くなる傾向があります。
💡 ざっくり言うと:「歯が残っているほど工程はシンプル、ゼロからの総入れ歯ほど時間がかかる」と覚えてOKです。
修理だけ vs 作り直し:費用と期間の目安
「全部作り直すしかないんでしょうか?」とよく聞かれますが、 壊れ方によっては修理だけで済むこと も多いんですよ。
修理で対応できるケース
- 入れ歯の一部が割れた(バネが折れた/歯が1本欠けた)
- 入れ歯の床(ピンク色の樹脂部分)にヒビが入った
- バネを引っかける歯を抜いて、バネを追加したい
→ こうした場合は、 1〜2週間で修理完了 することが多いです。
作り直しになるケース
- 入れ歯全体が大きく割れた/変形した
- 何年も使って、口の形と入れ歯が合わなくなった
- 残っている歯を多く失って、形が変わった
→ こうした場合は、 新しく型取りから始める ので1〜2ヶ月かかります。
費用の目安
費用は 保険適用かどうかで大きく変わります 。
- 保険適用の修理:自己負担 数千円〜1万円程度(窓口負担割合による)
- 保険適用の作り直し(部分床義歯):自己負担 5,000〜15,000円程度
- 保険適用の作り直し(全部床義歯):自己負担 10,000〜20,000円程度
- 自費の作り直し(金属床・特殊素材):20万〜50万円以上
💡 大事なこと:金額や期間は、 歯科医院や入れ歯の種類・お口の状態によって変わります 。必ず事前に歯科医院で見積もりを聞いてくださいね。
なお、 同じ入れ歯は原則6ヶ月に1回しか保険で作れない というルール(厚生労働省の歯科診療報酬上のルール)もあります。
📚 出典:厚生労働省「歯科口腔保健の推進」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000047330.html)
その間の食事はどうする?(ST視点)
ここからが私の本業、 嚥下(飲み込み)の専門家としてのアドバイス です。
入れ歯ナシの期間、食事で意識してほしいのは次の4つ。

① やわらかい主食に切り替える
- ごはん → おかゆ・軟飯
- パン → 牛乳に浸したパン粥
- うどん → 短く切ってやわらかく煮る
② 汁物にとろみをつけると安心
入れ歯がないと 口の中で食べ物をうまくまとめられず、ムセやすく なります。
汁物・お茶などサラサラした液体は、 とろみをつけると気管に流れ込みにくく なるんです。
💡 とろみ剤って何?:水分や汁物に混ぜると、ヨーグルトくらいのとろみがつく粉末。誤嚥(食べ物が気管に入ること)を予防する目的でよく使われます。詳しくは とろみ剤おすすめ5商品比較 をどうぞ。
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③ ゼリー・プリン・茶碗蒸しを活用
ツルッと飲み込めて、 歯がなくても食べやすい メニュー代表です。
- 茶碗蒸し(卵のたんぱく質も摂れる)
- プリン・ヨーグルト
- 介護用嚥下食ゼリー
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④ おかずは細かく刻むか、ペーストに
- 煮魚はほぐして
- 野菜は柔らかく煮て小さく切る
- 肉は挽き肉や煮込み料理に
詳しいレシピのコツは 嚥下食レシピ5選 もあわせて読んでみてくださいね。
入れ歯ナシ期間が長いと起きる3つのリスク
「入れ歯ができるまで、ちょっと我慢すればいいや」と思われがちですが、 入れ歯ナシ期間が長引くと、思わぬ影響 が出てきます。
① 嚥下機能の低下
入れ歯がないと 噛む力(咬合力/こうごうりょく)が落ち、食べ物を細かくできない まま飲み込もうとします。
💡 咬合(こうごう)って何?:上下の歯を噛み合わせること。咬合力が落ちると、食べ物を細かく砕けず、ムセや誤嚥のリスクが高まります。
その結果、 誤嚥性肺炎のリスク が高まると言われています。
📚 参考:国立長寿医療研究センター「歯科口腔機能と健康寿命」では、 口腔機能(噛む・飲み込む)の低下が要介護リスクと関連する ことが繰り返し報告されています。
② 栄養不足・体重減少
食べづらいと、自然と 食事量が減って体重が落ちる 方が多いです。
特に高齢の方は、 2週間で2kg痩せると、筋肉量がガクッと減る ことも。一度落ちた筋肉は、戻すのに時間がかかります。
栄養不足とリハビリの関係は、 嚥下障害+栄養不足のリハ運動強度 でも詳しく解説しています。
③ コミュニケーション・気持ちの落ち込み
意外と見落とされがちですが、 入れ歯がないと発音がしづらくなる んです。
- サ行・タ行が言いにくい
- 滑舌が悪くなる
- 笑った時に気になって、人前で話さなくなる
→ これが続くと、 会話が減り、気持ちも沈みやすく なります。
ご家族や介護職の方は、 「ちゃんと聞き取れてるよ」「ゆっくりで大丈夫」 という声かけだけでも、本人の安心感がぜんぜん違いますよ。
家族・介護職ができる工夫
入れ歯ナシ期間中、 ご家族や介護スタッフが少し意識するだけで、本人の負担はぐっと減ります 。
① 食形態の段階的な調整
「全部ペースト食」にしてしまうと、 かえって嚥下機能が落ちる ことも。本人の状態を見ながら、
- 軟飯 → おかゆ
- 刻み食 → ペースト食
と段階的に下げる方が安心です。
② 食事中の姿勢を整える
入れ歯がない時こそ、 姿勢の影響が大きく 出ます。
- イスに深く座る
- あごを軽く引く(上を向かない)
- 足を床にしっかりつける
詳しくは 誤嚥しにくい食事の姿勢 で図解付きで紹介しています。
③ 食事の声かけ・見守り
- 「ゆっくり噛んでね」
- 「ひと口ずつ、しっかり飲み込んでから次にいこう」
- 「お茶は少しずつ飲もうね」
→ ムセを防ぐ、シンプルだけど一番効果的な工夫です。
歯科との連携が大事な理由
入れ歯ができるまでの間、 歯科医院とのこまめなやり取り がとても大事です。
通院が難しい場合は訪問歯科を検討
「歯医者に連れて行くのが大変」「車椅子だと付き添いが厳しい」というご家庭は、 訪問歯科 という選択肢があります。
- 自宅・施設まで歯科医・歯科衛生士が来てくれる
- 入れ歯の型取り・調整も対応可能
- 介護保険・医療保険が使える ケースも多い
💡 訪問歯科の対象:原則として「通院が困難な方」が対象。歯科医院に問い合わせると、対応可能かどうか教えてもらえますよ。
ケアマネ・施設との連携も忘れずに
入れ歯のトラブルが続くと、 食事介助・栄養管理の負担も大きく なるんです。
ケアマネジャーや施設スタッフに、
- 入れ歯が壊れていること
- 修理/作り直し中であること
- 食形態を一時的に変えていること
を共有しておくと、 チーム全体で本人を支えやすく なります。
入れ歯のトラブルが頻発するようになったら、 介護施設の検討タイミング かもしれません。施設選びの情報は LIFULL介護 のような検索サイトで、地域ごとの施設情報を無料で見られます。
(PR)【現役ST体験】私が今の職場で出会った「入れ歯が壊れて困った利用者さん」
属性をぼかしてお話しすると、 80代の女性利用者さん。 普段は上下とも総入れ歯(全部床義歯)を使って、デイの昼食もしっかり召し上がる方でした。
ある日、ご家族から「家で入れ歯を落として割れてしまった」と連絡が来ました。 歯科にすぐ予約を入れたものの、 修理ではなく作り直しになる との診断。 完成までは 約1ヶ月 かかると言われたそうです。
デイで一番困ったこと:「ゴハンが食べられない」
その方が一番つらそうだったのは、 食事の時間 でした。
普段は常食(普通のごはん)を完食していたのに、入れ歯がない状態だと 白米がうまく噛めない。 歯ぐきだけで噛もうとしても、口の中で食塊(しょっかい)が作れず、 口から出してしまう ようになりました。
おかずも、煮魚や煮物は食べられても、 野菜のシャキシャキしたもの、お肉、ごぼうなどはほぼ手をつけない。 食事量は今までの半分以下まで落ちて、 2週間で体重が約1.5kg減少 しました。
💡 食塊形成(しょっかい けいせい)って?:口の中で食べ物を唾液と混ぜて、飲み込みやすい一塊にする働きです。歯がないとこの作業がうまくいかず、飲み込みにくくなります。
私がやった介入:2つ
① 食形態を「軽度の嚥下調整食」に変更
ケアマネさんに連絡して、 デイでの昼食を軽度の嚥下調整食に切り替え ました。
具体的には:
- 主食:白米 → やわらかいおかゆ(または軟飯)
- 主菜:煮物・蒸し物中心、肉はミンチか細かく刻んだものに変更
- 副菜:野菜は すべて加熱して柔らかく、繊維の強いものは避ける
- 汁物:とろみをつけて誤嚥を予防
「食べる楽しみ」をなるべく残しつつ、 口腔機能の負担を減らす形態 に調整した結果、食事量は通常の7〜8割まで戻りました。
② ケアマネ・ご家族に訪問歯科を打診
ご家族は「歯医者まで連れていくのが大変」と困っていらしたので、 訪問歯科 の選択肢をお伝えしました。
熊本市内には訪問歯科を行っている歯科医院が複数あり、 介護保険の枠で月1〜2回の口腔ケア+義歯調整 を組み合わせられます。
ケアマネさんが調整してくださり、 作り直し後の調整通院も訪問で対応 できることになりました。 これでご家族の負担も大きく減ったそうです。
その後:作り直して、また食べられるようになった
歯科に通って 約1ヶ月後、新しい入れ歯が完成。
最初の数回は「噛むと痛い」「外れやすい」といった調整が必要でしたが、 訪問歯科で2回調整 していただいて、ぴったり合うようになりました。
今では 元のように常食を完食 されています。 体重も少しずつ戻ってきて、表情も明るくなりました。
この体験から伝えたいこと
入れ歯が壊れた 1ヶ月 は、見た目以上にご本人にとって大きな試練です。
「もう歳だから仕方ない」「食べられるものだけでいい」と諦める前に、 STや管理栄養士、訪問歯科のチームでサポートできること がたくさんあります。
特に、 嚥下機能の低下を防ぐための食形態調整 は早めに動くほど効果的です。 入れ歯トラブルに直面したら、ぜひお近くのケアマネさん・STに相談してみてください。
まとめ|壊れたら慌てず、まず歯科に連絡を
最後に、今日のポイントをぎゅっとまとめますね。
- 修理なら1〜2週間/作り直しなら1〜2ヶ月 が目安
- 入れ歯はオーダーメイドなので、 5ステップの丁寧な工程 を経て完成する
- 全部床義歯(総入れ歯)のほうが、調整に少し時間がかかる
- その間の食事は やわらかい主食・とろみ・ゼリー・刻み食 で工夫
- 入れ歯ナシ期間が長いと、 嚥下機能・栄養・気持ち に影響が出る
- 通院が難しい時は 訪問歯科 という選択肢もある
- 家族・介護職は 姿勢・声かけ・段階的な食形態調整 でサポート
入れ歯のトラブルは、 本人にとっても家族にとっても、思った以上にストレス です。
でも、 壊れたその日にまず歯科へ電話する ことから始めてみてください。早ければ早いほど、修理で済む可能性も上がりますよ。
よくある質問(FAQ)
Q1. 入れ歯が壊れた日のうちに歯医者に行くべき?
A. その日のうちに電話相談 がおすすめです。当日中に予約が取れなくても、 応急処置の方法を教えてもらえる ことが多いです。割れた破片は捨てずに取っておいてくださいね。
Q2. 修理中の入れ歯は使える?
A. 修理に出している間は、その入れ歯は使えません 。歯科医院によっては「修理用に一時的に預かる代わりの仮の入れ歯」を貸してくれる場合もあるので、聞いてみてください。
Q3. 入れ歯を作り直すと費用はいくら?
A. 保険適用なら、部分床義歯で5,000〜15,000円、全部床義歯で10,000〜20,000円 が自己負担の目安(窓口負担割合による)。自費の場合は20万円〜になります。歯科医院で必ず事前に確認してくださいね。
Q4. 訪問歯科は介護保険で利用できる?
A. 介護保険・医療保険のいずれかが使える ケースが多いです。要介護認定を受けている方は、ケアマネジャー経由で訪問歯科を紹介してもらうのもスムーズです。
Q5. 食事を全部とろみ食にしたらいい?
A. いいえ、全部とろみ食にするのはおすすめしません 。本人の嚥下機能を見ながら、 必要な部分(汁物・水分)だけにとろみをつける のが基本です。全部やわらかくしすぎると、かえって噛む力・飲み込む力が落ちることがあります。心配な時は、かかりつけの歯科医や言語聴覚士に相談してくださいね。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の症状・治療方針については、必ずかかりつけ歯科医・医師にご相談ください。
入れ歯や嚥下のことでお困りの方は、 お問い合わせ からお気軽にご相談くださいね。


