「嚥下体操、教科書通りに10種類やらなきゃいけないの?」
「うちの父、認知症もあって、深呼吸からの順番なんてとても無理…」
「結局、何をいちばん大事にすればいいのか分からない」

そんなご家族の声、現場で本当によく聞いてきました。

私は現役言語聴覚士(ST)として 9年間、急性期病院で嚥下(飲み込み)リハビリ に関わってきました。今日は、教科書には載っていない 「現場のSTが本当に組んでいた嚥下体操の順番」と「続けてもらう工夫」 を、できるだけ正直にお話しします。

※本記事は私個人の臨床経験と一般的な情報を元にした内容です。個別の医療相談に代わるものではありません。気になる症状がある場合は医師にご相談ください。

結論|「教科書の10種類」を全部やる必要はない

先に結論からお伝えしますね。

  • 嚥下体操の 「教科書通り10種類を順番にやる」必要は、現場ではほぼありませんでした
  • 大事なのは、 その方の反応がいいものを抜粋して、無理なく続けること
  • 私が現場で「これは効いてるな」と実感していたのは、 舌の体操・発声・唾液飲み込みの3つ

正直、現場では認知症の患者さまも多く、 「深呼吸から始めて首回しして…」と教科書通りにやっていたら、本人がそこで疲れてしまう こともよくありました。

なので、 「全部やる」より「反応がいいものを抜粋する」 のが、9年やってきた私の現場感覚です。

ここからは、その理由と具体的な体操を、ゆっくりお話ししますね。

現役STが効果を実感したベスト3

施設で言語聴覚士が高齢者と一緒に舌の体操をしている場面

9年現場にいて、 「これは患者さまがちゃんと変わった」と実感した体操ベスト3 を、ランキングで先にお伝えします。

実はこれ、教科書の順番とは全然違うんです。

第1位|舌の体操

ベスト1は、迷わず 舌の体操 です。

舌を 前に出す・左右に動かす・上下に動かす 、たったこれだけ。でも、 これができる方は、噛む力も飲み込む力も維持しやすい 印象が、本当に強くありました。

舌の運動5方向(前・左・右・上・下)の動きを示した図解

💡 なぜ舌が大事?:食べ物を噛むときも、奥に送り込むときも、飲み込む瞬間も、 舌は全部の工程に関わる 主役の筋肉。舌が動かなくなると、噛んだものを喉の奥に送れなくて、口の中にずっと残ったり、ぽろっとこぼれたりするんです。

「舌が動けば、噛む力も飲み込む力もUP」。 これは、9年の現場で 私が一番実感したシンプルな真実 です。

→ もし「10種類のうちひとつだけ選んで」と言われたら、私は迷わず舌の体操を選びます。

第2位|発声(あー、いー、うー)

第2位は 発声 。「あー」「いー」「うー」と声を出すだけのシンプルな体操ですが、これが侮れません。

発声は、 飲み込む力+体全体の体力のバロメーター

💡 どういうこと?:声を出すには、お腹の力・肺の力・喉の筋肉が全部必要。だから 「今日は声が大きく出る/弱い」を見ているだけで、その日の体調がだいたい分かる んです。

現場では、毎朝の発声練習で 「今日は元気だな」「今日はちょっと弱いな」を確認していた くらい、判断材料になる体操でした。

ご家庭でも、 「今日のお父さん、声が小さいな」と感じた日は、食事のペースをゆっくりに したり、 無理に体操をしないで休む選択 を取ったり。バロメーターとして使うのが、いちばん賢い使い方かなと思っています。

第3位|唾液飲み込み(空嚥下)

第3位は 唾液飲み込み(空嚥下) 。これがランクインする理由を、少し丁寧にお話しさせてください。

💡 空嚥下(からえんげ)って何?:食べ物を使わず、 唾液だけで「ごっくん」と飲み込む練習 のこと。「のどの奥に何もない状態」で飲み込めるかを見る、嚥下リハビリの基本中の基本です。

これ、 やってと言われてすぐできるものじゃない んです。

「唾を飲んでくださいね」と言っても、 そもそも唾液がたまっていない/飲み込もうとしても飲み込めない 方が、現場では本当にたくさんいらっしゃいました。

家族が観察すべき2つのポイント

唾液飲み込みは、ご家族が観察するときに 2つのチェックポイント があります。

  1. 嚥下音:飲み込むときに「ごっくん」とちゃんと音が鳴るか(喉仏に手を当てて、上下にしっかり動くか)
  2. 残留音:飲み込んだあと、 「あー」と声を出してもらって、ガラガラした湿った音が混じっていないか

💡 残留音って?:飲み込んだあと、喉に唾液や食べ物が残っていると、声が 「ガラガラ」「ゴロゴロ」した湿った響き になります。これは「ちゃんと飲み込めていないサイン」。ご家庭で 誰でも耳でチェックできる、誤嚥リスクの最重要指標 です。

唾液飲み込みは、家庭で誤嚥リスクを早めに気づける、最強の観察ポイント 。これを毎日5回でも続けていると、「最近ガラガラ音が増えてきた」と気づきやすくなります。

すでにむせ込みが続いている方は、 誤嚥性肺炎の初期サイン7つ もあわせて読んでみてくださいね。

本来の10種類&現場での組み方

「ベスト3だけでいいの?」と思った方のために、 本来の嚥下体操10種類 もちゃんとご紹介します。

ご家庭で食事前にやるなら、 無理なく取り入れやすい順番 で並べました。

嚥下体操10種類の順番を2列5行で番号付きにまとめたインフォグラフィック

#体操名やり方(ざっくり)回数の目安
1深呼吸鼻から吸って、口からゆっくり吐く3回
2首回し・首倒し左右ゆっくり倒す、ぐるっと回す各2回
3肩の上げ下げ肩を上げてストン3〜5回
4頬の運動膨らませる・すぼめる各5回
5舌の運動前後・左右・上下各3〜5回
6唾液腺マッサージ耳下腺・顎下腺・舌下腺をやさしく押す各5回
7パタカラ発声「パパパ・タタタ・カカカ・ラララ」各5〜8回
8嚥下おでこ体操額に手を当て、おへそを覗き込む5秒×3回
9唾液飲み込み(空嚥下)唾を意識して「ごっくん」3〜5回
10深呼吸(締め)もう一度ゆっくり呼吸1〜2回

でも、全部やる必要はありません

ここで強くお伝えしたいのは、 「この10種類を毎日全部やらなきゃいけない」わけではない ということ。

私が現場で組んでいたメニューは、 その方によって全然違いました

  • 認知症で集中が続かない方 → 舌・発声・唾液飲み込みの3つだけ で2分
  • 元気で意欲のある方 → 10種類全部+雑談 で15分
  • 拒否が強い方 → 歌だけ (「ふるさと」を歌うだけでも口と喉は動く)

→ つまり、 「その方の反応に合わせて選ぶ」のが現場の正解 。決まりきった10種類を律儀にこなすのが正解、ではないんです。

💡 唾液腺マッサージ・嚥下おでこ体操ってなに?:唾液腺マッサージは 耳の下・あごの下・舌の下を軽く押して唾液を出やすくする 体操。嚥下おでこ体操は 額に手を当てて押し合いっこしながら、飲み込みに使う喉の筋肉を鍛える 体操です。

唾液腺マッサージの3つの場所(耳下腺・顎下腺・舌下腺)を示した図解

嚥下おでこ体操のやり方(額に手を当てておへそを見る姿勢)を示した図解

詳しくはパタカラ体操記事もどうぞ。

パタカラ発声の4つの口の形(パ・タ・カ・ラ)を示した図解

パタカラ体操の詳しい考え方や、最新エビデンスについては、別記事の 「パタカラ体操だけ」で大丈夫?現役STが教える、今の嚥下リハの考え方 にじっくり書いていますので、あわせてどうぞ。

続けてもらうコツ|うめあかりの現場の知恵

家庭で高齢の父と娘が一緒に発声練習をしている場面

ここからが、 教科書には載っていない、現場の知恵 の話です。

正直、嚥下体操って「やり方」より 「どう続けてもらうか」のほうが、何倍も難しい んです。9年やってきて、私が実感した続けてもらうコツを5つ、お伝えしますね。

コツ1|無理にやらせない(最優先)

これが一番大事。 無理にやらせると、信頼関係がくずれます

「またこれか…」と乗ってこない日は、必ずあります。そういう日に 無理やり10回やらせると、次回からリハビリの時間そのものが苦痛 になっちゃう。

その方のペースに合わせる 。これが、結果的にいちばん長く続きます。

コツ2|「あと3回ですよ〜」「最後ですよ〜」で見える化

体操って、 「いつ終わるか分からない」のが一番しんどい んです。

なので私は必ず、 「あと3回ですよ〜」「最後ですよ〜」 とゴールを見せていました。

💡 なぜ効くの?:人は「終わりが見える」と頑張れる生き物。終わりが見えないと、3回目で「もう無理…」となるけど、 「あと3回」と言われると、不思議と最後までやれる んです。

これ、ご家庭でも本当に使えるテクニックなので、ぜひ試してみてくださいね。

コツ3|ポジティブな声かけをする

「すごく力入ってますね」「いい感じですよ〜」「今日は声が大きいですね」。

こういう ポジティブな声かけ を、私は意識的にいっぱい使っていました。

ご高齢の方って、リハビリ中に 「できていない自分」と向き合う時間 が長いんです。だからこそ、 「できてる」と言ってもらえることが、何よりの栄養 になる。

→ ご家族がやるときも、 「お父さん、舌しっかり出てるね」「声大きいね」 と、できているところを言葉にしてあげてくださいね。

コツ4|イラスト・図で見通しを作る

私は現場で、 「今日やる体操の一覧表」をイラスト付きで 用意して、患者さまに見せていました。

見通しがあると、 「今これをやってる」「次はこれ」と本人が予測できる 。これだけで、続けやすさが全然変わります。

→ ご家庭でも、 A4の紙に「今日の体操メニュー」を書いて、テーブルに置いておく だけでOK。冷蔵庫に貼るのもおすすめです。

コツ5|「またこれか…」の壁を越える方法

それでも、 マンネリ化はやってきます

そういうときの私の対応は、 「嚥下体操だけにこだわらない」 でした。

  • 散歩できる方なら、 散歩を一緒に
  • 歌が好きな方なら、 歌を歌う (「ふるさと」「365歩のマーチ」など発声しやすい歌)
  • どうしても乗らない日は、 手のマッサージや雑談 だけで終わる日もあった

「首から上だけがSTの仕事」というのは、実は 誤解 だと私は思っています。

座る・歩くなど全身の力をあげると、飲み込み・咳の力もUPする 。これは現場でずっと感じていたことです。

「嚥下体操やらなきゃ」と固くなりすぎず、 「今日は歌だけでもOK」「散歩だけでもOK」 と柔らかく構えるのが、結果的にいちばん長く続きます。

寝たきりでもできるバージョン|ベッドで4種類

「寝たきりだから、嚥下体操なんて無理だよね…」と諦めているご家族、すごく多いです。

でも、 寝たきりでもできる体操はちゃんとあります

ベッドを30度起こした状態で行う嚥下体操4種類(舌の運動・発声・唾液飲み込み・マッサージ)の図解

ベッドでもできる4種類

#体操やり方
1舌の運動仰向けでも前に出す・左右に動かす
2発声「あー」「いー」だけでOK
3唾液飲み込み「ごっくん」を意識的に
4唾液腺マッサージ介助者が耳の下・あごの下を軽く押す

寝たきりの方にやるときの3つの注意点

  1. ベッドを30度くらい起こす (完全な仰向けは誤嚥リスクがあるため)
  2. 介助者が一緒にやる (「お母さん、舌出してみて」と声かけ+本人も真似する)
  3. 「やらなきゃ」より「コミュニケーションの時間」として 楽しむ

→ 寝たきりの方こそ、 「今日も顔を見て、声を聞ける時間」が何より大事 。完璧にやることを目的にせず、 「一緒に過ごす時間」のひとつ として取り入れるのが、長く続けるコツかなと思います。

すでに寝たきりに近い状態のご家族がいる場合は、 親が誤嚥するようになったら?言語聴覚士が教える家族の対応とろみ剤おすすめ5選 も参考になると思います。

やってはいけない3つのNG

最後に、 現場で見てきた「これはダメだった」NG例 を3つ。

NG1|無理やりやらせる

繰り返しになりますが、 これが最大のNG

「今日は機嫌が悪いから」「疲れてるから」と本人が言っているのに、 「リハビリだから」と無理にやらせる と、次回から全力で拒否されます。

本人の「今日はやりたくない」は、ちゃんと尊重 してくださいね。

NG2|回数を一律に決める

「毎日10回ずつ、絶対に」と決めるのも、現場感覚ではNGです。

その日の体調で、5回が限界の日もあれば、20回できる日もある。 「今日の本人の状態に合わせて増減する」のが正解

「最低3回はやろう、調子よければ多めに」くらいの柔らかさ で、ちょうどいいです。

NG3|嚥下体操だけにこだわる

そして最後。 「嚥下体操だけが嚥下リハビリ」だと思い込まないこと

冒頭でも触れましたが、 全身の力をあげると、飲み込み・咳の力もUP します。

  • 散歩・体操で 全身の体力UP
  • 歌で 発声+楽しさUP
  • お風呂で リラックスして筋肉ゆるむ

こういう 「日常の小さな積み重ね」のほうが、嚥下体操10回より効くこと が、現場では本当に多かったです。

「嚥下体操やらなきゃ」と気負いすぎず、生活全体で支える 視点を、ぜひ持ってあげてくださいね。

まとめ|大事なのは「無理なく・楽しく・長く」

最後に、もう一度だけお伝えしたいこと。

  • 嚥下体操は 「教科書の10種類を全部やる」必要はありません
  • 効果実感ベスト3は 舌の体操・発声・唾液飲み込み
  • 続けるコツは 無理にやらせない・あと3回の声かけ・ポジティブ声かけ・見える化・マンネリ脱出
  • 寝たきりでもベッドで4種類はできる
  • NGは 無理やり・回数固定・嚥下体操だけにこだわる の3つ

「毎日完璧に10種類」より、 「無理なく、楽しく、長く」 が、結果的にいちばん効く。これは9年の現場で、私が何度も実感してきたことです。

ご家族のケアって、本当に終わりが見えなくて、しんどい時もありますよね。 「今日はできなかった」と自分を責めないで 、ぜひ気楽に取り入れてみてください。

このページが、ご家族の食事の時間を 「楽しく・安全に」過ごすヒント になれば、うれしいです。

ご質問やご相談があれば、お問い合わせからお気軽にどうぞ。


【参考にした情報】

  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「訓練法のまとめ(2014版)」
  • 健康長寿ネット「嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)」(藤島一郎医師監修)
  • 日本歯科医師会「オーラルフレイル対策の口腔体操」
  • LIFULL介護「自宅でできる嚥下リハビリ」
  • 日医工「嚥下(えんげ)体操」

※本記事は私個人の臨床経験と一般的な情報を元にした内容です。個別の医療相談に代わるものではありません。気になる症状がある場合は医師にご相談ください。