「5歳になったのに、『さかな』が『たかな』のまま…」
「年中・年長クラスで、うちの子だけ発音がおぼつかない気がする…」
「就学前健診で何か言われたらどうしよう…」

そんな不安で、検索からこの記事にたどり着いてくださったのかなと思います。

私は 現役の言語聴覚士(ST) として9年間、子どもの言葉と構音の発達に関わってきました。今は2児の母として、長男(5歳)の発音にも一喜一憂しているひとりの親でもあります。

このページでは、 「3歳のサ行は様子見でいい/でも5歳のサ行は要相談ライン」 という結論を、 論文・公的データ・現場の臨床視点 の3つから読み解いていきますね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の発達相談や診断に代わるものではありません。気になる症状があれば、必ず小児科や保健センター、言語聴覚士のいる医療機関にご相談ください。

結論|「5歳サ行」は要相談ライン。3つの根拠

先に結論をお伝えします。

5歳でサ行が安定して言えない場合は、「様子見」から「相談」に切り替えるタイミング 。これが現役STとしての臨床判断です。

根拠は3つ。

  1. 日本人小児の構音獲得データ:サ・ザ・ラ・チャ行は 5〜6歳までに獲得 されるのが標準(野田ら 1969/中西ら 1972)
  2. 機能性構音障害という概念:構音器官に問題がなく構音だけ未熟な状態。 就学前児童の数%に見られる (日本コミュニケーション障害学会 等)
  3. 小学校入学後の二次的影響:読み書き(音韻意識)・友人関係・自己肯定感への影響が報告されている

💡 機能性構音障害って何?:口の形・舌の動き・聞こえに問題がないのに、 特定の音だけ正しく出せない状態 のこと。サ行→タ行、カ行→タ行など、決まった置き換え方をする子が多いです。原因がはっきりせず、適切な訓練で改善が期待できるタイプ。

つまり、 「3歳でサ行が言えない=普通/5歳でサ行が言えない=専門家に相談する価値あり」 。これがエビデンスベースのシンプルな目安です。

日本人小児の構音獲得年齢チャート:2歳パ行・3歳ナ行・4歳カ行・5〜6歳サ行ザ行ラ行チャ行(野田ら1969より)

次の章から、この結論の根拠をひとつずつ丁寧に解説します。

日本人小児の構音発達エビデンス|野田ら(1969)の獲得年齢

まずいちばん大事なデータから。

日本の言語聴覚領域で 長年スタンダードとして引用されてきた構音獲得年齢 は、 野田雅子ら(1969)「構音の発達」音声言語医学 第10巻 に基づくものです。

その後、中西靖子ら(1972)でも同様の結果が示され、現在も言語聴覚士養成課程の教科書に掲載されています。

年齢ごとに獲得される音(ざっくり)

野田ら(1969)・中西ら(1972)を統合すると、おおむね以下の順番で獲得されます。

  • 2歳ごろ:パ・バ・マ・タ・ダ など、口を閉じて出す音
  • 3歳ごろ:ナ・ハ・ヤ・ワ など、やわらかい音
  • 4歳ごろ:カ・ガ など、舌の奥を使う音
  • 5〜6歳ごろサ・ザ・ラ・チャ など、舌の繊細なコントロールが必要な音

→ つまり、 サ行は「いちばん最後に獲得される音のひとつ」 。3歳・4歳でサ行が「タ行」「シャ行」になっていても、 発達の途中 と考えるのが標準です。

「5歳」というラインの意味

複数の構音検査(新版構音検査・日本語版構音検査など)でも、 「5歳以上で誤りがある場合は構音障害を疑う」 という基準が用いられています。

つまり、

  • 3歳でサ行が言えない → 発達の通過点
  • 4歳でサ行が言えない → 半数以上の子は獲得している段階。要観察
  • 5歳でサ行が言えない → 専門家評価の対象

このラインは、教科書的にも臨床的にも一致しているところです。

3歳のサ行が言えないは正常範囲|長男(5歳)の経験から

少しだけ、わが家の話をさせてくださいね。

うちの長男は今 5歳 ですが、 3歳のころは「さかな」を「たかな」、「すいか」を「ちゅいか」 と言っていました。

ST資格を持つ私でも、当時は内心 「もしかして構音障害?」と何度もよぎった のを覚えています。

でも、上で書いた 野田らのデータ を見直して、 「3歳でサ行が完成していないのは標準的な発達」 と自分に言い聞かせて、特別な訓練はせずに過ごしました。

結果、 4歳半ごろから自然に「さかな」と言えるように なり、今では発音の不明瞭さはほとんどありません。

この経験から伝えたいこと

ST現場で、 「3歳児健診でサ行を指摘されてしまって不安です」 というお母さんによく出会いました。

そのとき私はいつも、

「3歳でサ行が言えるのはむしろ早いほうです。5歳までに自然に獲得する子がほとんどなので、いったん家庭で言葉あそびを楽しみながら様子を見ましょう」

とお伝えしていました。

3歳のサ行は、95%以上の子が通る道 。焦らないで大丈夫です。

ただし、 「5歳になってもサ行が言えない/4歳でラ行・カ行も含めて広く誤る」 といったケースは、別の話。次の章でくわしく解説します。

5歳でサ行が言えないと何が起こる?|機能性構音障害という概念

5歳を過ぎても特定の音だけ獲得できない状態を、専門的には 「機能性構音障害」 と呼びます。

機能性構音障害の定義

日本コミュニケーション障害学会言語聴覚士養成テキストでは、おおむね以下のように整理されています。

  • 構音器官(唇・舌・口蓋)に明らかな器質的問題がない
  • 聞こえに問題がない
  • 知的発達・言語発達に明らかな遅れがない
  • それでも 特定の音の誤りが年齢相応に獲得されず残っている 状態

💡 「器質的問題」って何?:口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)など、 口の形や構造そのもの に原因がある状態のこと。機能性構音障害は、構造に問題がないのに発音だけうまくいかないタイプを指します。

有病率(どのくらいの子に見られる?)

機能性構音障害の 就学前児童での有病率は、文献によって幅があり、おおむね2〜10% とされています。

つまり、 クラスに1〜3人 はいる計算。決して珍しい状態ではないということです。

→ 「うちの子だけ?」と思わなくて大丈夫。 同じ悩みを持つ家族はたくさん います。

小学校入学後の二次的影響

機能性構音障害そのものは命に関わるものではありません。 ただし、 就学後に以下のような二次的影響 が報告されています。

  • 読み書き(音韻意識)の遅れ:「さ」と「た」の音を聞き分ける力が弱いと、 ひらがな学習でつまずきやすい
  • コミュニケーション面の影響:友達に発音をからかわれて 話すのが苦手になる
  • 自己肯定感への影響:「うまく話せない自分」が嫌になる

→ だからこそ、 就学前(4〜5歳)に気づいて、必要なら訓練を始める ことが大事だと考えられています。

機能性構音障害は、 適切な訓練で改善が期待できる ことも分かっています。「治る/治らない」と断定はできませんが、 専門家と取り組む価値は高い 領域です。

就学前健診で何が分かる?|現場の実際

「5歳の秋に 就学前健診 があるけれど、そこで構音は見てもらえるの?」というご質問もよくいただきます。

就学時健康診断の法的根拠

小学校入学前の健康診断は、 学校保健安全法 に基づいて、入学する年の 前年11月30日まで に実施されます。

検査項目には、

  • 栄養状態
  • 脊柱・胸郭・四肢の状態
  • 視力・聴力
  • 言語の異常 ← ここに構音の評価が含まれる
  • 知能(簡単な検査)

などが含まれており、 「言語の異常」の項目で構音もチェック対象 です。

現場の実際

ただし、 就学前健診の構音チェックはあくまで「ふるい分け」レベル

短時間で簡単な絵カードや会話で診ることが多く、 「サ行が少し気になりますね」と指摘されて初めて気付く 親御さんも少なくありません。

→ 就学前健診で指摘されてからでは、 訓練開始が小学校入学後にずれ込みがち

私の現場経験では、 「就学前健診で初めて言われて、慌てて4月から訓練に通った」 というご家庭が毎年いらっしゃいました。

そのご家族からよく聞いた言葉が、

「4歳のときから気になっていたのに、もう少し早く相談すればよかった」

という、ちょっと切ない後悔の声。

→ だからこそ、 5歳の春〜夏に「あれ?」と気付いた時点で、専門家に相談しておく価値 があるんです。

家庭でできる「音の弁別」あそび|土台づくりの5つ

「相談する前に、家庭でできることはありますか?」というご質問にもお答えしますね。

ポイントは、 「正しい発音をさせる練習」ではなく、「音を聞き分ける力(音の弁別)を育てる」 こと。

💡 音の弁別(おとのべんべつ)って何?:「さ」と「た」、「し」と「ち」のように、 似た音を聞き分ける力 のこと。 音韻意識(おんいんいしき) とも呼ばれ、 正しい構音にも、読み書きにも、土台として大事 だと報告されています(学会論文 多数)。

家庭でできる音の弁別あそび5つ:絵本・しりとり・音あそび・吹くあそび・うがい

1. 絵本の読み聞かせ

サ行・ザ行・ラ行が たくさん出てくる絵本 を、ゆっくり読んであげるのがおすすめ。

「さかな・さかな・さーかな♪」のように 歌に乗せる と、子どもが自然に音を意識します。

2. しりとり

しりとりは、 「音を1つずつ切り取る力」 を育てる王道あそび。

「さ・か・な」と一文字ずつ手をたたきながら言うと、 音韻意識 の土台になります。

3. 音あそび・うたあそび

「さ・し・す・せ・そ」を 歌のリズムに乗せて 楽しむ。 童謡「サッちゃん」「アイアイ」 など、サ行・ラ行が多い歌は自然に練習になります。

4. 吹くあそび(ストロー・シャボン玉)

サ行は 息を細く前に出す音 。 ストローでぶくぶく、シャボン玉、紙吹雪を「ふー!」と吹くなど、 息のコントロール を遊びで育てます。

→ STの訓練でも、 「吹く・吸う」あそびは構音準備として推奨 されることが多いです。

5. うがい・ぶくぶく

舌や口の奥の筋肉を使う 「うがい」 も、構音の土台づくりに役立ちます。

毎日の歯みがき後に 「ぶくぶく10秒」 を習慣にするだけでも、口の動きが豊かになるんです。

→ どれも 「楽しい」が最優先 。「言えてないよ」「ちゃんと言って」と直すのは、子どもが話す意欲を下げてしまうので避けてくださいね。

どこに相談する?|保健センター・小児科・耳鼻科・STの違い

「いざ相談するとして、どこに行けばいいの?」が次の疑問だと思います。

5歳児の構音に関わる相談先は、おもに4つ。それぞれの 役割と向き不向き を整理しますね。

構音の相談先4ステップ:保健センター→小児科→耳鼻科→言語聴覚士

1. 保健センター(市区町村)

長所:無料・最初の窓口として安心・地域の専門機関に繋いでもらえる。 短所:構音の専門評価まではできないことが多い。

「まず誰かに相談したい」最初の入り口 におすすめです。

2. かかりつけ小児科

長所:体調や全身の発達と合わせて見てもらえる・紹介状を書いてもらえる。 短所:構音そのものの専門評価はできない場合が多い。

「他に発達面で気になることもある」 ご家庭の入り口に。

3. 耳鼻咽喉科

長所:聞こえの検査・口の中の構造チェックができる。 短所:構音訓練自体は耳鼻科では行わないことが多い。

「聞こえが心配」「口の形が気になる」 場合の最初の選択肢。

→ 構音障害の評価の前段階として、 聞こえに問題がないか確認 することは、ほぼ必須です。

4. 言語聴覚士(ST)のいる施設

長所:構音の 専門評価・訓練計画 が受けられる。家庭での関わり方を具体的に教えてもらえる。 短所:地域によっては数が少なく、予約待ちが長いことも。

「構音そのものを評価して、必要なら訓練したい」 ならここ。

STは以下のような場所にいます。

  • 小児を診ている 総合病院・大学病院のリハビリ科
  • 児童発達支援センター・療育センター
  • ことばの教室(公立小学校に併設) ※就学後
  • 民間の言語聴覚士相談室 (自費・1回5,000〜15,000円程度)

地域の 保健センター に「構音の相談ができるSTのいる場所」を聞くのが、いちばん早い場合が多いです。

→ 「就学前のSTって、 マイナビコメディカルPTOTSTワーカー で求人を見ると、児童発達支援領域でも増えてきている職種なんだよ」と、専門職としての立ち位置もあわせてお伝えしておきますね。

FAQ|5歳サ行Q&A

ここまで読んでくれた方の、よくある疑問にお答えします。

Q1:4歳でサ行が「タ行」になっている。受診したほうがいい?

A:4歳時点では 「観察期間」 と考えるのが標準。野田ら(1969)のデータでも、サ行の獲得は5〜6歳が中心です。 ただし、 サ行以外(カ・ラ・ナなど)も広く誤っている 場合は、4歳でも相談する価値あり。

Q2:5歳でサ行が「シャ行」になる(「さかな」が「しゃかな」)。これも構音障害?

A: 「側音化構音」「口蓋化構音」 など、いくつかタイプがあります。 タ行への置き換えとは別パターンですが、 5歳で残っている場合は専門家評価の対象 。STに見てもらうと、どのタイプかが明確になります。

Q3:兄弟で構音が遅い。遺伝?

A:機能性構音障害そのものに 明らかな遺伝要因は確立されていません が、 家族内で似た傾向が出やすい という報告はあります(学会報告 多数)。

家庭環境(話しかけ方・聞こえの環境)の影響も含まれるため、 「家族の責任」ではなく「家族でできること」 に目を向けるのが建設的です。

Q4:療育センターは予約待ちが長い。それまでに何ができる?

A:上で紹介した 「音の弁別あそび5つ」 を家庭で取り入れるのが第一歩。 それと並行して、 民間STのオンライン相談 で1〜2回見てもらうのも選択肢です。

Q5:2歳児の言葉も気になる。同じように見ていいの?

A:2歳と5歳では、見るポイントが全然違います。 2歳の言葉については、 2歳でまだ単語が出ない…言語聴覚士ママが教える『様子見でいい子・相談すべき子』の見分け方 をあわせてどうぞ。

まとめ|「3歳は様子見・5歳は相談」のシンプルな目安

最後に、要点をまとめます。

  • 日本人小児の構音獲得データ(野田ら 1969)では、 サ・ザ・ラ・チャ行は5〜6歳までに獲得 されるのが標準
  • 3歳でサ行が言えない のは 発達の通過点 。95%以上の子がここを通ります
  • 5歳でサ行が言えない 場合は、 機能性構音障害 の可能性があり、専門家評価の対象
  • 機能性構音障害の有病率は 就学前児童の2〜10% 。決して珍しくない
  • 就学前健診では構音もチェック対象だが 「ふるい分け」レベル 。気付いたら早めに相談する価値あり
  • 家庭では 音の弁別あそび(絵本・しりとり・吹くあそび等) が土台づくりに
  • 相談先は 保健センター→小児科→耳鼻科→ST の順で選ぶと迷いにくい

5歳という年齢は、 「就学準備の最後の1年」 。気になることがあれば、 今のうちに相談しておく ことで、安心して入学を迎えられます。

「うちの子だけ?」と検索してしまう夜の不安、すんごい分かります。私自身、長男のサ行に何度もハラハラした親のひとりです。

3歳なら様子見、5歳なら相談。 このシンプルな目安を、 論文と現場の両方から自信を持ってお伝え しておきますね。

このページが、年中・年長のお子さんと向き合う家族の心を、少しでも軽くするきっかけになればうれしいです。


【参考にした情報・引用文献】

  • 野田雅子ら(1969)「構音の発達」音声言語医学 第10巻
  • 中西靖子ら(1972)「構音検査とその結果に関する考察」東京学芸大学特殊教育研究施設報告
  • 『標準言語聴覚障害学 発声発語障害学』医歯薬出版(言語聴覚士養成課程テキスト)
  • 日本コミュニケーション障害学会 機能性構音障害解説
  • 学校保健安全法 第11条/同施行規則 第3条(就学時健康診断の検査項目)
  • Shriberg, L.D., et al.(1999)“Prevalence of speech delay in 6-year-old children” Journal of Speech, Language, and Hearing Research(英語圏の有病率参考)
  • 日本言語聴覚士協会 公式サイト

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療相談や診断に代わるものではありません。気になる症状や発達面で不安があれば、必ず小児科・保健センター・言語聴覚士のいる医療機関にご相談ください。

ご質問やご相談があれば、お問い合わせからお気軽にどうぞ。